「とある科学の超電磁砲」の主人公・御坂美琴.学園都市に7人しかいない「超能力者(レベル5)」の第三位で,電気を自在に操ることができる「電撃使い(エレクトロマスター)」である.作品を知らない人は,下記の動画を見るとなんとなくイメージができるはず.
もちろんアニメや漫画は「フィクション」の世界であるため戦闘描写はサラッと描かれているが,ここで一つ大真面目に考察したいと思う.
「御坂美琴のようにコインをぶっ飛ばすことは可能なのだろうか」
という訳で,その辺の理系大学生が本気で工学検証していく.
0.そもそもレールガンって何?
レールガンは作中だけに登場する造語などではなく,実際に存在する.レールガンは従来の大砲などとは異なり,火薬ではなく電磁力を利用して弾体を発射する兵器のことである.協力な電流を流すことで磁場を発生させ,その力で弾を加速させるため,極めて高速での発射を可能にする.
この仕組みによって,長距離からの攻撃,高速飛来するミサイルの迎撃,弾薬コストの低減といった利点が期待され,2010年頃に注目を集めたが,技術的な課題により2020年代初頭に事実上開発が停止された.
1.検証の前提条件
検証していく上でまずは前提条件を立てる必要がある.できるだけ原作の仕様に寄せつつ以下の項目をベースに計算を進めていく.
発射体
銅合金コイン,質量\(m=5\)g ,直径25mm
※アーケード用ゲームコインを想定
初速
マッハ3≒\(v\)=1300m/s
※マッハ3がどのくらいの音速となるかは気温で変化するが,海面で約340m/s.マッハ3は約1030m/s≒時速3700km.ライフル弾の銃口速度が約940m/s=マッハ2.7,戦車の手法がマッハ5前後.マッハ3は現代の対物ライフルをわずかに超える初速であり,人類が手にした飛翔体としては割と現実的なラインである.
加速距離
\(d\)=0.5m~1.0m
※腕の長さ程度
レール間距離
\(L\)=25mm
※コインの直径と等しいと仮定
加速のモデル
一定加速度(最低見積もり)
※実機ではパルス的に変動
2.運動エネルギーを求める
高校物理の「力学」分野でも学ぶ「運動エネルギー」.ある物体が速度\(v\)で動いているとき,その動きがもつエネルギーのことである.
\(K=\frac{1}{2}mv^{2}\)
これは仕事とエネルギーの定理\(W=\int Fdx=\Delta(\frac{1}{2}mv^{2})\)から導出される,力学の最も基本的な式の一つである.
ここに先ほどの数値を入れて計算すると
\(K=\frac{1}{2}\)×0.005kg×(1030m/s)\(^{2}\)
\(=\frac{1}{2}\)×0.005×1060900
\(K\approx\)2652J\(\approx\)2.65kJ
となる.一般的な銃などとスケール感を比べると
この図を見ると,威力としては「対物ライフル弾」と「重機関銃弾」の中間程である.ただ意外なことに,米海軍が作っていた戦艦に搭載したレールガン(数十MJ級)と比較すると約12000分の1にすぎないパワーである.フィクションの世界を見ているとオーバースペックかと思いきや,案外控えめなスペックである.
3.腕の長さで加速するということ
御坂美琴は作中でバカでかい機関銃を所持している訳ではなく,本人の能力でコインを指で吹っ飛ばしてレールガンを放っている.なので腕の力でコインに対してどのくらいの加速度を持たせる必要があるかどうかを考えなければならない.
まず必要な平均推力\(F\)を求める.力\(F\)で距離\(d\)を加速したときに与えられる仕事は
\(W=F\cdot d\)
これが運動エネルギーになるため,必要な平均推力は
\(F=\frac{K}{d}\)
次に一定加速度を仮定すると,平均速度は\(\bar{v}=v\)/2(初速ゼロから\(v\)まで一様に増加)であるから
\(d=\bar{v}\cdot{t}=\frac{v}{2}\cdot{t}\Rightarrow t=\frac{2d}{v}\)
また,等加速度運動の公式\(v^{2}=2ad\)から,
\(a=\frac{v^{2}}{2d}\)
となる.\(d\)が0.5m,1.0mでそれぞれ値は以下のようになる.
(1)0.5mは
\(F\)=5304N(=540kgf),\(a\)=1.06×\(10^{6}\) m/s\(^{2}\),\(t\)=0.97ms
(2)1.0mは
\(F\)=2652N(=270kgf),\(a\)=5.30×10\(^{5}\) m/s\(^{2}\),\(t\)=1.94ms
この結果から,約1msで540kgfを5gのコインにかけ続けるというのは想像し難い加速である.また加速度10\(^{5}\)は,米海軍が実機レールガンの試験で報告している60000g超をさらに上回る数字.米海軍は艦砲という巨大装置でこれを実現しているのに対し,御坂美琴は腕の長さだけでこれを可能にしなければならない.距離が短い分,力が大きくなるためかなり難しい...
☞コラム
10万Gは,コインの自重を10万倍にして押されるのと同じ.500円玉(7g)が700kgの重りになるレベル.ただの銅合金コインだと,加速中にコインそのものが座屈・破断する可能性がある.米軍EMRG用の弾もタングステン芯が入っている+特殊合金スリープで,構造的に「砕けない」ように徹底されている.したがって御坂美琴の能力には,実は「発射体の構造強化(電磁力?などで内部結晶を補強)」する力が含まれているのかもしれない.
4.電磁力の中身(ローレンツ力)
磁場中の電荷にはたらくローレンツ力は
\(\vec{F}=q\vec{v}×\vec{B}\)
これを「電流が流れる導体」にあてはめると,長さLに磁束密度Bが垂直にかかったとき,
\(F=BIL\)
これは中学・高校物理でもおなじみの「フレミングの左手の法則」の式そのもの.
次に,レール間隔\(L\)=0.025mとして,\(F\)を満たす(\(B\),\(I\))の組み合わせを考えると
これだけ見ると,100Tの磁場を作れば電流は2kAで済むと読み取れるが,それは誤りである.理由は2つあり,
1.100Tクラスの磁場は数cm^{3}程度の領域でしかパルスでも作れず,装置が壊れてしまう(連続では45Tが世界記録).
2.その磁場を作る電源も必要になる.したがってエネルギー収支は変わらない.
そもそもレールガン本来の動作原理は,「外部磁場」ではなく「自分の電流が作る磁場で自分が押される」というもの.2本の平行レールに電流Iを通すと,レール間にできる磁場がmレール同士をつなぐ電機子(アーマチュア)に作用して前方への力を生む.このとき水力は,インダクタンス勾配\(L'\)([H/m],レール長が1m伸びるとインダクタンスがどれだけ増えるか)を使って次のように書くことができる.
\(F=\frac{1}{2}L'I^{2}\)
レールガンに蓄えられる磁気エネルギーは\(U=\frac{1}{2}LI^{2}\).電機子が距離\(x\)進むと\(L=L'x\)なので,エネルギー保存則より
\(F=\frac{\partial U}{\partial x}\)│\(_{I=一定}=\frac{1}{2}L'I^{2}\)
実機レールガンでは\(L'\approx \)0.3~0.6μH/mである.
よって,\(L'=\)-.5μH/mとして
\(I=\sqrt \frac{2F}{L'}\)
(1)\(d\)=0.5mのとき
\(I\)=145700A\(\approx\)146kA
(2)\(d\)=1.0mのとき
\(I\)=103000A\(\approx\)103kA
ここから必要電流は約100~150kA.これは米軍の戦艦搭載のレールガン(数MA級)と比べれば1/10~1/20で,自動車溶接機を50~100倍にしたくらいの電流であるため,現代の工業用パルス電源が出せる範囲内にすることができた.
☞コラム
一般家庭のブレーカーが大体30A程度.100kAはその3300倍.ただし,流すのはわずか1ms(千分の一秒)なので,「平均的な電力消費」としてはたかが知れている.例えるなら,「短距離走の0.01秒だけウサイン・ボルト並みにする」といった話で,瞬発力に全ぶりした世界である.
5.必要な電源(キャパシタ)
レールガンの「銃口効率」(電気エネルギーのうち弾の運動エネルギーになる割合)は,実機で20~30%が一般的である.
\(\eta =\frac{K}{E_{電気}}\Rightarrow E_{電気}=\frac {K}{\eta}\)
よって,効率\(\eta\)のとき必要入力\(E\)はそれぞれ以下のようになる.
30%のとき8.84kJ
25%のとき10.6kJ
20%のとき13.3kJ
10%(コイルガン相当)のとき26.5kJ
キャパシタが蓄える静電エネルギーは
\(E_{C}=\frac{1}{2}CV^{2}\)
電圧について解くと,
\(V=\sqrt \frac{2E_{C}}{C}\)
よって容量\(C\)必要電圧\(V\)はそれぞれ以下のようになる.
100000μFのとき447V
50000μFのとき632V
10000μFのとき14141V
5000μFのとき2000V (レールガン研究実験室の典型)
1000μFのとき4472V
250μFのとき8944V (米軍EMRG用パルス電源領域)
放電は加速時間\(t\approx \)1msに集中するため,
\(P_{OUT}=\frac{K}{t}=\frac{2652}{0.97×10^{-3}}\approx \)2.73MW
となり入力換算(効率25%)で約11MW.出力11MWは小型水力発電所1基分の電力が,わずか1msの間に流れる.既存技術と比べると以下のようになる.
☞コラム
リチウムイオン電池はエネルギー密度では非常に優秀(200~300wh/kg)であるが,1msで全量放電する用途では電極が物理的に追いつかない.一方スーパーキャパシタは,容量こそ電池より小さい(~85Wh/kg,研究室レベル)ものの,比出力が100~1000倍高いため,レールガン用途では電池より圧倒的に向いている.
+αの要素
ここまで「2.65kJのエネルギー」と「100kA級の電流」が必要だと求めることができたが,これが揃ってもまだコインを撃つことはできない.残る関門が以下.
運動量保存則
運動量保存則により,コインに与える運動量と同じ大きさの運動量が逆方向,すなわち発射した御坂美琴側へ反作用として帰ってくる.
\(p=mv=0.005×1030=\)5.15kg・m/s
これが加速時間\(t\)=1msで発生する.したがって平均した反作用力は
\(F_{反}=\frac{P}{t}=\frac{5.15}{1.0×10^{-3}}\approx\)5150N
つまり約540kgfが,たった1msの間に御坂美琴の腕にかかってくる.人間の肩関節の脱臼荷重は約1500N~2000N,上腕骨が骨折する荷重は3000N~4000Nとされる.540kgfはこの療法を超える.普通の人間が打てば,その時点で腕がぶっ壊れる.上条当麻もたいがいであるが,御坂美琴も中々に強靭すぎる体である.
御坂美琴の隠れた能力として,「反作用を電磁場的に床・大地に逃がす機構」があるとすればこのようなデメリットも克服できる.むしろそう考えるのが妥当.これは作中では描かれてないが,彼女が磁性体を周囲に展開して反作用を分散させている設定なのであれば整合はとれなくない.一方通行みたいに頭の中で計算しているのか?!
熱とレール浸食
100kAの電流が1ms流れたときのジュール熱は,レールの抵抗をR~10\(^{-4}\)Ωと見積もっても,
\(Q=I^{2}Rt=(10^{5})^{2}×10^{-4}×10^{-3}=\)1000J
レール1gあたりに換算すると相当な発熱で,1発でレール表面が局所的に溶融・蒸発する可能性が高い.実際,米海軍EMRGの最大の技術課題は「砲身寿命」.アーマチュアと砲身の摩擦熱・大電流通電による発熱が累積し,数十発で砲身を交換する必要があると言われている.
御坂美琴の方式が連写可能なのは,レール役を「磁力線」または「仮想的な磁場経路」に置き換えているからだと解釈できる.物理的なレールがなければレール浸食は起こらない(その代わり別の問題が発生してしまうのだが...).
大気アーク・衝撃音
100kAの電流を大気中で短時間放出すると,周辺の空気がプラズマ化して可視光(青白いアーク)と衝撃はを伴う.放出パワー11MWを1msで放出するときの音響エネルギーは,最大で153dB相当(ジェットエンジンの至近距離より大きい).作中で御坂美琴が超電磁砲を放つ際,閃光・電弧・轟音が描写されるのは,物理的には必然である.
電磁パルスの発生
100kAを1msでスイッチングすると,周囲に強烈な電磁パルスを発射する.半径1mでの磁束密度は,無限直線電流に近似して
\(B=\frac{µ_{0}I}{2\pi r}=\frac{4\pi ×10^{-7}×10{5}}{2\pi ×1}=\)0.02T=200ガウス
これが1msで立ち上がるので,\(dB\)/\(dt\)は地球磁場(~0.5ガウス)の100万倍級.周囲の電子機器は確実に損傷する.自分はアニメしか見ていない為,漫画の原作がどこまで描かれているのか把握していないが,御坂美琴の周囲の電気機器に誤作動する描写があれば,物理的には正しくなる.なかった気がするが...
コイルガン解釈の方が自然?
実際に検証してみると,御坂美琴の発射ポーズ(指でコインを弾く+砲丸が見えない)は,「レールガン」より「コイルガン(多段ソレノイド型)」に近いような気がする.
御坂美琴の「指から飛ぶ」描写はコイルガンに近く,レールガンと比べ効率が落ちる代わりに砲身の浸食問題がなくなる.その分で必要電気エネルギーは26kJほどに増えるが,それでも依然として現代キャパシタの射程内である.なのでいつか「とある科学のコイルガン」に改名されるかもしれない.総括.御坂美琴の超電磁砲は工学的に成立するのか?
成立する部分
(1)必要エネルギー量(265kJ) ◎
拳銃弾と重機関銃弾の中間くらい.EDLC数百gで十分蓄えることができる.
(2)必要電圧(1~10kV) 〇
工業用パルス電源で達成可能
(3)必要電流(100kA級) 〇
米軍のレールガン1/10~1/20.技術的に既存のレンジ
(4)必要パルスパワー(~10MW) 〇
パルス電源で実機が存在
成立が難しい部分
(1)加速度10\(^{5}\)gに耐えうる発射体 △
銅合金単体ではほぼ不可能.学園都市のメダルコインが特殊な構造なのか,御坂美琴に隠れた能力があるのか.
(2)1msで100kAをスイッチング △
半導体スイッチでは限界.ガス放電管・爆発スイッチが必要になる.
(3)御坂美琴への反動耐性 ×
540kgfを腕で受けると通常人体では破壊されます.
(4)レール(あるいは仮想砲身)の発熱処理 ×
1発で溶融.連写には能動冷却が必須.
結論
「2.65kJは意外と現代技術の射程内.しかし,それを「腕の長さかつ1msで連写可能に撃ち出す」ということに関しては,ある意味魔術である.」
したがって,超電磁砲の威力そのものではなく,小型化・反動・発熱の処理こそが,御坂美琴の能力の本質的な凄さだと言える.作中内で御坂美琴はレベル1から努力でレベル5になったと記載がある.もしかしたら,レベル5になる過程でこうした問題を自身の能力でカバーリングする術を身に付けていったのかもしれない.
検証してみると案外エネルギー収支は破綻していない.むしろ「電気・電子工学的ぬい詰めると,能力者が必要なのは威力ではなく周辺設備」だとわかる.これが「とある」シリーズのSF的な強みでもあり,「科学」と題するだけあって設定の整合性が意外と取れていることの証明でもあるかもしれない.
という訳で,今回は御坂美琴のレールガンについて検証してみた.はっきりいって割としんどかった.扱った式は比較的初歩的なものがおおいものの,ブログに起こす際にLaTexで打ち込むのが面倒だった.でも空想科学読本みたいで楽しかったので,今後もこの企画は続けていきたい.その辺の大学生が計算した内容なので,ご指摘等あればメールで気軽にご連絡ください.
最後までご覧いただきありがとうございました.





